黒白
池波正太郎が、新作長編小説のタイトルが決まらず、ふらりと立ち寄った鮨屋で、食欲も出ず、巻物を注文したそうです。職人さんが手際よく簾の海苔に酢飯を広げた時に閃いたのが「黒白(こくびゃく)」というタイトルだったそうです。私は作品を先に読んでいて、このエピソードは別のエッセイ集で知りました。
黒か白か、右か左か、正か邪かと、いつからかどちらかに決めないと収まらない世の中になったことを池波師が嘆いていて、黒でも白でもない、グレーの濃淡の折り合いの中にこそ人の営みがあるのではないか?とは、これは作品の中の登場人物にも言わせている事ですね。
例えば私が自分の頭の中で描いた「黒」や「白」のイメージは、ほぼ万人が持つそれと異ならないという自信はありますが、では「グレー」ではどうでしょう?これこそ千差万別というものではないでしょうか?
ハッキリとしないグレーを「白黒付ける」事が必要な場合がありますよね?自分では「こちらが白だから相手は黒」と考えていても、両方グレーということもあります